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渡邊志乃さま『葛の布帯展』のお知らせ と 当館の糸について

2021-05-06

 札幌で葛の帯を製作されている渡邊志乃さまの個展をご紹介します。

この個展では、ZOOM や Instagramによる配信も行われるそうです。遠方でも拝見できるので、とても楽しみです。ZOOMは予約が必要です。Instagramは毎日夕方配信されます。
渡邊志乃さまは、当館の座繰り糸を使ってくださっています。今回は、その糸について少し以下に書きます。


 当館の糸作りは、桑を育て、日本品種の蚕を飼育することから始まります。そして自家生産した繭を手回しの上州座繰器で糸にします。当館にご注文くださるお客様は、手機で着尺や帯を織る方々です。

創作者にとって、制作にどんな材料を使っているかは重要なため、公表されない方も多い中、渡邊志乃さまはご自身のホームページ内で「私達について」として当館の名前を掲載いただいています。ご自身の制作において、素材や道具など関連するモノ事すべてに真摯でいらっしゃるのだと感じています。

※ 公表するか、しないかは人それぞれだと思います。当然の事ながら、糸をご購入くださるお客様から当館の事をお話いただかない限り、他言はございません。


 当館では、5月から始まる春蚕と9月の晩秋蚕の繭を生産しています。蚕は、この緑の桑葉をたくさん食べて繭をつくります。卵から孵って、おおよそ25日ほどで糸を吐き繭を作ります。飼育について詳しくは、「養蚕」をクリックください。

今年ももうすぐ春蚕が始まるシーズンです。ちょうど春蚕を育てているときにはこのように桑の木に実がなります。


 渡邊さまは、ご自身の生活圏に自生する葛を採取し、糸を績み、帯地を染織されます。当館の座繰り糸はその葛糸と相性が良いとおしゃっていただきました。

渡邊さまと当館のおつき合いは、5年以上になります。あるとき、写真の布が届きました。当館の座繰り糸をタテ糸に渡邊さまの葛糸をヨコ糸に交織されています。葛の光沢に驚きました。まるで、穏やか水面に光が射し静かに波うつようで、目が釘付けになりました。または、雪解けで大地が輝くようなイメージが湧いてきます。いずれにしても、静かでありながら躍動的な輝きがあるのです。


 布を間近で拝見できたことで、私は渡邊さまが求めていらっしゃる糸を以前よりも具体的に感じられるようになったと思います。

この写真は、渡邊さまにお作りする生糸のために繭の選別をしたときのものです。このときは、節がない糸を作るために上質な繭だけを選びました。他、節糸もお納めしています。節のある座繰り糸は、製糸方法が独特なだけでなく、原料繭のグレードに変化をつけると、糸により豊かな表情をもたらすので面白い仕事です。この配合はお客さまごとにデータを取っています。これは、常時数種類の繭を保管できる当館の強みかと思います。


 渡邊さまの糸をお作りしている写真です。毎回、数種類のご依頼をいただきます。ご自身の布を探求されるため、ご質問をいただいたり、前回お納めした糸の感想をくださり、それらの内容から、当館が糸をご提案させていただくこともあります。それを面白がって試してくださるので、私は渡邊さまとのやりとりが毎回緊張しながらも刺激的で楽しいです。

 


 これらの画像は、以前お納めした生糸です。黄色い糸は、染めたものではなく「ぐんま黄金」という黄色い繭から作った生糸です。

 

 

 

 5月14日から始まる渡邊志乃さまの個展『葛の布帯展 -- 色、文様 -』とても楽しみです。大変恐縮ですがライブ配信等で拝見させていただこうと思っています。


 最後に、配信といえば、渡邊さまの podcast 『葛布の手織りの機場から』がオススメです。ほぼ毎日音声配信されていて、最近は今回の展示のコンセプトである色と文様についてご自身が感じていることをお話されています。その中から、1つ上げさせていただくと、ちょうど色と文様の話の初回「#153」で、5年ほど前にご本人が絣文様を制作に取り入れたいと思い、実際どんな柄を入れようかと考えたときに自分の中で気づいた事柄を拝聴して、私は渡邊さまの創作スタンスが現れている素敵なエピソードだなととても印象深く感じました。